2019年03月25日
最近、M&Aやベンチャー投資の局面でアーンアウト条項を付した投資をよく見かけます。公表された大型案件でも以下のような事例があります。製薬会社などボラティリティの高い業態でよく見られます。
①大塚製薬によるNeurovance, Inc.の買収
②マネックスグループによるコインチェックの子会社化
③ ユーザベースによるQuartz社の買収
買い手がIFRS適用会社の場合、公正価値をもってアーンアウト債務を計上する必要があります。以下が会計処理のアウトラインです。
①公正価値と同額、株式の取得価額が増加し、連結決算上のれんが増加
②取得日時点で公正価値により計上された条件付取得対価の金額は原則として変更されず、減損損失を認識しない限り、のれんの金額も変動しない
③毎期、公正価値の変動を計測し、変動額を損益計上
④追加払いが確定した場合は債務計上額との差額を損益計上
⑤アーンアウトの公正価値評価には、インカム・アプローチ(DCF法)が用いられる
⑥DCF法の適用にあたっては複数シナリオ、モンテカルロシミュレーション、ディシジョンツリーアナリシス(2項分布)、リアルオプションなどが考えられる
IFRS採用会社は毎期アーンアウトの公正価値を計算する必要がありますが、会計監査上、外部の専門家による評価証明書を求めらるケースが多いようです。オプション評価が絡むので会計士であれば誰でもできる仕事ではなくそれなりの費用がかかります。
現状、日本基準ではアーンアウト(条件付対価)は確定時に株式の取得価額(連結上はのれん)と未払金の追加計上でよいので、IFRS採用企業は追加で開示コストがかかることになります。
その他、IFRSは時価会計の思想で出来ていますので、減損会計も減損損失の戻入規定があるなど日本基準に比べて資産の時価を測定頻度が高くなります。近年、のれんの非償却のメリットを求めてIFRSを採用する企業も多いですが、採用後の経理関連コストの増減も含めて意思決定をしたいところです。
2016年06月17日
コメダ珈琲が6月末に上場することになり久々の大型案件として話題になっていますが、同社はIFRS(国際会計基準)を任意適用しています。従来は未公開企業はIFRSの適用は認められませんでしたが、2013年に適用要件が緩和されて徐々に適用事例が出てきています。
【IFRS適用のIPO企業】
2014年10月:すかいらーく
2014年12月:テクノプロホールディングス
2015年11月:ベルシステム24ホールディングス
2015年12月:ツバキ・ナカシマ
(詳細は東証HPを参照)
上記の会社に共通するのは投資ファンドの出資会社であり、投資ビークルと対象会社との合併などにより、会計上、多額ののれんが発生している点です。日本基準ですとのれんは20年以内の合理的な期間で償却されますので、純資産及び利益の下押し要因となりますが、IFRSですとのれんの償却が不要ですので、財務体質が強化されるとともに一株当り利益も高くなりますので、より高い株価が期待できる効果を狙っているものと推察されます。
一方で、IFRSでは毎期のれんの減損テストを行います。将来キャッシュフローの割引現在価値がのれん簿価に満たない場合、差額が減損処理されることになります。減損処理が行われると損益が大幅に悪化してしまいますので、IFRSを適用する場合、将来の影響も十分考慮する必要があります。
こうした減損テストは株式のDCF評価と同様に、事業計画や割引率に主観が介在しますので、財務諸表利用者は十分留意する必要があります。有価証券評価における株価の回復可能性の見積もり、税効果会計における欠損金の回収可能性の見積もり、退職給付債務計上における各種基礎率や割引率の見積もり、資産除去債務の見積もりなど、2000年の会計ビックバン以降の各種会計基準の導入は、斜めから見れば全て会計に主観を持ちこむ改正です。東芝の工事進行基準の悪用による利益操作も総費用や進捗度の見積りという主観が介在する基準ゆえに行い得たものであり、会計基準の改正により経理操作の余地が高まっている点が一般に理解されていない点が問題と考えています。
こうした見積りを検証するのが公認会計士による会計監査なのですが、事業のプロが立てた見積りに(会計はプロでも)事業の素人である会計士が異を唱えるのは非常に難しく、現行の会計監査制度の限界を感じます。
以前、会計士として上場企業監査を行っていた時代は、税務基準の非上場企業の決算書を一段低く見ていましたが、税理士として非上場企業の税務基準の決算書を多く見る中で、税務決算書は余計な見積もりがなされておらず、意外に有用な資料であるとも思うようにもなりました。(金商法会計ではP/L処理が理論的に純化されることによる欠点を、キャッシュ・フロー計算書という別の書類の導入で補完しているということも言えますが。)
M&Aにおける財務DDにおいても、ターゲットは上場企業だからDDは形式的にやっておけばよい的な理解があると思いますが、むしろ上場企業であるからこそ、会社や監査人の主観により開示数値が作られているという視点は持っておくべきかと思います。
2015年11月23日
所長の宮口です。独立してからは非上場企業に関与する度合いがより増えましたが、最近デューデリジェンスなどで粉飾や逆粉飾を発見することが非常に多いです。黒字の企業は税金をセーブするために逆粉飾を、赤字の企業は対銀行や業法の縛りから業績をよく見せるために粉飾をするわけですが、いろいろな手法があり、非常に勉強になります。
粉飾については、減価償却を止める、在庫の払出しを止めるなどのよくある手法から、取引先協力の下、請求書を発行し、売上を上げてから翌期に取り消す、社長が会社への貸付金を免除して売上に混在させるなどの手法がありました。
よくある利益操作手法であるセールスアンドリースバック取引でも、売買処理により利益のかさ上げを狙う一方で、リース会社の協力の下、金融処理にして消費税の非課税取引とする手法も併用するなど、会計の見え方、税金、キャッシュ・フローを総合的に考えていろいろ工夫されている事例にもあたりました。
逆粉飾についても、決算期の異なる取引先に請求書を発行してもらい経費を作った上で、翌期に逆に仕事を受けたことにして売上を作るといった手法がありました。
私はもともと上場企業監査からキャリアをスタートさせましたが、他の会計士同様に、規模が大きすぎて全体像が把握できない、既に監査が入っていて指摘事項が特にない、優秀な経理マンが作成した資料を後追いでなめるような作業といった理由で、やりがいを感じられなかった部分がありました。その点、中小企業は、外部の目が行き届かないことからいろいろな操作が行われていることが多く、監査スキルを磨くうえでも恰好の教材であると思います。
当時は社会人経験もないまま財閥系の巨大企業の会計監査をしていたので、見るべきものが全く見えていませんでしたが、約20年の実務経験により、いろいろな事例を見た結果、嗅覚が発達し、最近はより、ポイントを突いた監査ができるようになったと感じています。また独立したことにより、経営者の肌感覚が少しは分かるようになった気がします。(数百人の雇用を預かる責任や億単位の連帯保証を背負う気持ちまでは想像できませんが。)
いま改めて考えるに事業会社経験者が監査を行った方が何倍も、効果的な監査ができると思いますので、より、事業会社と監査法人の人事交流が進めばよいと思っています。監査法人勤務の方も、公開準備業務など、より、会社(社長や担当者)の立場に立って仕事ができるプロジェクトに関与することが、上場企業監査のクオリティーを上げることにもつながると考えています。
散文失礼いたしました。
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