2023年11月16日
読売新聞の取材を受け、最近話題の事業税外形標準課税の見直し(無償減資による租税回避防止対応)についてコメントしました。
11月15日の朝刊に掲載されていますので有料記事ですがご紹介まで。
外形標準課税の適用判定を現行の資本金額から資本金と資本剰余金の合計額で判定することになりそうです。
上場企業を含む相次ぐ大企業の課税回避に対応する趣旨ですが、これにより減資などしていない企業にも影響が及ぶことが考えるため、改正の詳細が注目されます。
なお、所得の発生しない赤字企業は外形標準課税課税適用で間違いなく増税になりますが、黒字企業は逆に有利になるケースもあります。各社の損益・費用構造によりますので分析してみることも有益です。
宮口徹
2023年03月21日
今年から来年にかけて資産税及びその周辺領域で以下の改正が行われます。これにより個人の財産管理や生前贈与の管理等、税理士の富裕層への関与のアプローチが変化することを感じています。
1.2023年からの改正項目
(1)財産債務調書について従来の提出義務者(所得2千万円超、かつ保有資産時価3億円以上)に加えて保有資産時価10億円以上の方も対象となる
2.2024年からの改正項目
(1)生前贈与加算が現行の3年から7年に延長
(2)相続時精算課税選択者にも年額110万円の基礎控除が認められる
まず、1について、財産債務調書は現在も法定調書ではありますが、従来は任意の提出書類だったこともあり所得税申告書のおまけ的な位置づけととらえている納税者や税理士が多いものと思います。当職も以前はそうでしたが発想を変えて、法的な義務を順守しつつ保有財産を管理するツールとして積極的に活用することをお勧めしています。会社はP/LとB/Sを作成するのが当たり前ですが、個人はP/L(所得税申告書)のみというのが考えてみればおかしく、富裕層についてはフローとストック両面から情報を把握することが顧客へのよい提案につながるものと考えています。
次に2ですが、相続時精算課税の適用が増加することが想定されるのと、暦年贈与であっても贈与履歴を時系列で把握する重要性が高まっています。従来、所得税や贈与税の申告業務というと年明けの単発業務の位置づけで申告完了したら1年間は忘れているという感じが一般的と思いますが、より計画的に贈与を行う方とそうでない方の差が開いてきますので税理士としても受け身ではなく積極的に提案をしてきたい所です。
このような発想で物事を考えていくのはプライベートバンカーと同様と考えています。プライベートバンクと称する巷の業者の大半が金融商品や不動産を顧客に売るだけの存在であることに辟易しているわけですが、上記改正によりプライベートバンク業務における税務ノウハウの重要性がさらに高まっていることを考えるとこのマーケットに税理士が注力する実益があると考えています。
なお、法人顧問の社長の確定申告はサービスで行っているようなケースも多く、追加の報酬額について理解頂くのは容易ではありませんが、「お金をどう守るか」、また「お金をどう承継するか」は社長の一番の興味である「お金をどう稼ぐか」と同様に重要なテーマであり、費用をかけただけの効果はあります。
最近よく税理士は企業の参謀にならないと生き残れないなどと言われていますが、当職もまさに富裕層の参謀を目指して日々精進しています。
宮口徹
2022年12月16日
本日、自民党より令和5年度税制改正大綱が公表されました。所得税や贈与税についての改正項目は別途本ブログでも取り上げる予定ですが、制度の根幹に関わる改正が結構入った印象です。
【法人税】についての主な項目は下記のとおりです。
①政策減税
・研究開発税制の拡張
・特定資産買換え特例の期限延長
②国際税務
・グローバル・ミニマム課税の導入
・外国子会社合算税制に関する事務負担緩和
③納税環境整備等
・電子帳簿保存法の緩和
・小規模事業者に係るインボイス制度の緩和措置
なお、防衛費増加に係る財源確保のための増税策(法人税に係る4%程度の付加税等)は明記されたものの導入時期は来年度以降に持ち越しとなりました。
また、減資による事業税外形標準課税の回避対応についても継続課題とされていますが、今回は改正はない模様です。
なお、法人課税については1月10日発売の「旬刊経理情報」に解説記事を寄稿しますのでそちらもご覧ください。
(12月17日追記)
所得税と資産税の改正項目について頭出しします。
【所得税】
・NISAの恒久化と拡充
・エンジェル税制の拡充
・適格ストックオプションの要件緩和
・超富裕層に対する課税強化
【資産税】
・相続時精算課税についても基礎控除110万円を認める
・相続税の計算に組み込まれる生前贈与の期間につき3年から7年に延長
宮口徹
2021年12月23日
12月10日に与党から令和4年度税制改正大綱が公表されています。予想に反してM&Aや資本政策絡みでも多数改正が入っています。主な項目は以下のとおりです。
1.完全子法人株式等に係る配当源泉税の廃止(会計検査院の指摘に対する対応。2023年5月10日以後の配当から改正)
2.資本の払戻しに係るみなし配当計算方法の変更(混合配当に係る最高裁判決を受けた対応)
3.いわゆるソフトバンク税制の適用緩和(経済界の要望を受けた改正。2020年4月1日以後の配当について遡及して改正)
4.グループ通算制度における投資簿価修正の改正(経済界の要望を受けた改正)
特に上記4について買収プレミアムが譲渡時に損金算入できないという不合理が制度適用開始前に是正された点は非常に歓迎すべき改正です。
詳細については年明け発売の「旬刊経理情報(中央経済社)」に寄稿しますので是非ご覧頂ければと存じます。
宮口徹
2021年08月11日
以前も本ブログで紹介しましたが、今年度の税制改正で以下の通り中小企業のM&Aに係る準備金制度が創設されています。
令和3年度税制改正大綱(一部抜粋)
青色申告書を提出する中小企業者(中略)のう中小企業等経営強化法の改正法の施行日から令和6年3月31日までの間に同法の経営力向上計画(経営資源集中化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けたものが、その認定に係る経営力向上計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る。)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合(その株式等の取得価額が10億円を超える場合を除く。)において、その株式等の価格の低落に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てた時は、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする。
株式の取得原価については原則として売却するまで損金算入できないのが原則的な税務の取扱いですが、上記の準備金制度を用いれば取得金額の70%を損金算入できるという画期的な制度です。ただし、永久的な減税ではなく取得した株式を売却や清算等で保有しなくなった場合には準備金を取崩して益金算入します。また、売却等しない場合でも株式を取得した事業年度から5年経過した事業年度から1/5ずつ取崩して益金算入されますのであくまで課税の繰延べという位置づけです。
本制度については制度の詳細の公表が待たれていましたが、8月2日に中小企業庁のサイト(下記URL)にて、制度の詳細や各種書式のフォーマットが公表されています。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/shigenshuyaku_zeisei.html
以下サイト中の資料に基づき手続きの流れや適用要件をご紹介します。
1.手続きの流れ
(1) M&Aの相手方が決まったタイミング(基本合意後等)で、経営力向上の内容に株式取得を含み、かつ事業承継等事前調査の内容を記載した経営力向上計画を策定し、主務大臣の認定を受ける
(2) 認定計画の内容に従って株式取得を実行した後、主務大臣に対して事業承継等を実施したこと及び事業承継等事前調査(DD)の内容について報告し、確認書の交付を受ける
(3) 税法上の要件を満たす場合には、税務申告において準備金積立額について損金算入。税務申告に際しては、認定書と確認書(いずれも写し)を添付する
(4) 事業承継等事前調査の内容を記載し、準備金積立またはD類型を活用した場合、計画期間(3年~5年)の間の毎事業年度終了後、事業の状況等に係る報告書を認定を受けた主務大臣に提出する必要がある
右表中④の経産局の確認書発行と⑤の主務大臣の計画認定にそれぞれ1ヵ月程度要するとされています。計画認定後に⑦の設備(株式)取得を行うことが原則となるので余裕を持って申請するよう案内されていますが、どうころぶかわからない交渉事であるM&Aと申請手続きを並行して進めることは容易ではないとも思います。
2.経営力向上計画(D類型)の要件
本準備金制度の創設に合わせて経営力向上計画にD類型が新設されています。まず、D類型の適用については法務と財務のデューディリジェンス(DD)の実施がマストであり、計画認定時とM&A報告時に実施したDDについての報告が必要となります。
DDは弁護士、公認会計士、税理士等の専門家が行うことが基本となり、専門家以外が行う場合はDD報告書の提出が必要になるなど、より詳細を確認されることになります。
また、D類型については計画終了年次に以下の数値基準のいずれかを満たすことが前提となります。実際に目標値を達成できなかった場合でも認定は取り消されませんが、計画通りの事業遂行を行わなかった場合には取り消しの対象となります。
計画期間3年:有形固定資産回転率の増加率+2% OR 修正ROAの増加率+0.3%
計画期間4年:有形固定資産回転率の増加率+2.5% OR 修正ROAの増加率+0.4%
計画期間5年:有形固定資産回転率の増加率+3% OR 修正ROAの増加率+0.5%
(注)有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産
修正ROA=(営業利益+減価償却費+研究開発費)÷総資産
以上、簡単ですが中小企業のM&A準備金制度についての詳細公表についてご紹介しました。課税の繰延べ措置ではありますが資金繰りに対する効果が大きいためM&Aアドバイザーとしては実際に申請するかはともかくとして、適用可能性につき検討すべきと考えています。
宮口徹