2018年04月19日
近年、所得税の増税や社会保険料率の値上げが継続していますが、2018年時点の給与所得者の税金・社保控除後の手取り額を概算してみました(添付参照)。
ご案内の通り、所得税(住民税含む)は15%~55%の累進課税で上限なく課税されますし、給与所得控除も220万円が上限ですので年収が上がるにつれて当然に負担額が上がります。
一方で社会保険料については所得に対して一定率であり、所得が一定水準を超えると保険料は頭打ちになりますので、社会保険料と税金の両方の影響が加味されて手取り額が決まってきます。
表を眺めますと、年収が比較的低い層でも社保の負担が重いため20%超の負担率となっています。こうした社保の負担を嫌い、フリーターを選択したり、あえて社会保険に加入しない方も存在します。
また、年収1,200万円の方を基準に限界税率(所得の増加分に対する追加税金の比率)も記載しましたが、給与が増加した場合、累進課税により従来の税負担率以上の税率で課税されますので手取りは思ったより増加しないことが読み取れます。最近、正社員でも出世や給与よりもプライベートを優先する傾向が見られると言われますが、中間所得層の負担増はこうした傾向に拍車をかける一因となっているのかもしれません。頑張って給与が多少増えても税金や社保が上がってさほど手取りが増えないのであればむしろ平社員でいた方が気楽でよい的な発想が蔓延するのは経済全体にとって非常に問題と考えています。
通常、私達は年収いくらなどど給与額面のみにこだわりがちですが(源泉徴収と言う天引きにより各種控除に意識が向かないような制度を作り上げた政府の手腕は見事というほかありません。)、副業なども認められるようになってきた環境下、各種負担や手取り額に着目し、収支を設計する発想ができる方とそうでない方で、長期的な財産形成に差が生じます。残念ながら政府も取りやすいところから取りますので、タックスリテラシーを含めたマネーリテラシーを高めたいところです。
2017年09月30日
ご案内のとおり、税制改正は例年12月の税制改正大綱で実質的に確定しますが、現在は各省庁から税制改正要望が提出されている段階です。経済産業省からも8月に税制改正要望が公表されていますが(サイト参照)、当事務所の専門であるM&Aや事業承継に関しても注目すべき要望項目が複数挙がっています。
1.自己株対価TOBの課税繰延べ
国際的には主流の株式を対価とした株式買収について、売手の株式売却益を繰り延べる措置で、主に上場企業が他社を買収する際の利用を想定しています。
自社株対価TOB自体は平成23年の産活法の改正で認められましたが、当時は税制措置が認められなかったため全く普及していません。当時私も経済産業省の委託業務に関与しており本制度を研究していましたので制度の創設を願っています。
2.中小企業の事業承継に向けた税制措置
(1)親族・従業員等に株式等を贈与・相続する場合の「事業承継税制の抜本的拡充」
現状の事業承継税制の使い勝手が悪いことも、非上場企業のM&Aが活況を呈している一因であると理解していますので効果的な改正がなされた場合の実務影響が気になるところです。経産省の担当官によれば改正内容はまだ公表できないとのことですが、現状の支配株主と後継者の1対1の関係から父母から等、複数名からの贈与・相続も対象とすること等が検討されているようです。
(2)他企業・親族外経営者・ファンド等に株式・事業譲渡する際の税負担軽減
①譲渡益課税の軽減、②登録免許税の軽減、③不動産取得税の軽減
本改正については、どういった取引を対象として、どの程度税負担を軽減するか次第で非常に大きな影響が生じますので、改正内容を見極めたいところです。経産省の担当官によれば、対象企業は地域経済に貢献できる企業に限定される予定とのことですが、具体的な要件の公表が待たれるところです。また、税額軽減の内容は検討中とのことです。
(3)ファンドを経由して事業承継する場合の税負担軽減
大企業の関係会社となり「中小企業者の優遇税制」が受けられなくならないよう措置
現状、具体的な制度概要は不明であり、総選挙もありますので改正の可能性も未定ですが、弊社のビジネスにも大きく影響する項目ですので年末の税制改正に向けて動向を注視していきたいと思います。
宮口
2017年08月01日
マンションオーナーが賃貸マンション建設時の消費税を還付するためにマンション敷地に自販機を設置する「自販機スキーム」については税制改正が繰り返され、節税はほとんど不可能と言われるに至りました。以下、スキームの概要と税制改正の変遷について整理します。なお、簡略化した記載をしていますので実務にあたられる際は法令や国税庁のサイトをご確認ください。
自販機を設置しない場合
賃貸マンションを建設する場合、当然に消費税の負担が生じます。仮に建設費が5億円かかる場合、現行税率(8%)では4千万円もの課税が行われることになります。支払った消費税は課税売上割合(課税売上高÷全売上高)分しか還付されないため、マンションの賃貸収入が非課税売上になる関係で課税売上割合はゼロ%となり、課税事業者を選択したとしても消費税の還付は認められません。
自販機スキーム(基本形)
そこで、マンション敷地に自動販売機を設置し、販売手数料を発生させます。販売手数料は課税売上になりますので、支払消費税の還付が可能となります。前提として課税事業者になる必要があるので「課税事業者の申請」を行います。仮に消費税を支払った期の課税売上が販売手数料のみであれば、課税売上割合は100%となり、消費税全額の還付が可能となります。
ただし、「調整対象固定資産(100万円以上の固定資産)」というルールがあり、資産取得後3期間の平均課税売上割合が著しく変動した場合、控除税額を再計算して差額を追加納付することになります。著しい変動とは
①(マンション取得年度の課税売上割合-3期通算課税売上割合)÷マンション取得年度の課税売上割合≧50%、かつ、
② マンション取得年度の課税売上割合-3期通算課税売上割合≧5% の場合です。
マンション賃貸開始以降は売上の大部分が非課税売上になるので、上記ルールにトリガーしてしまい、1期目に還付された消費税を3期目に納税しないといけなくなります。そこで申請により3期目は免税事業者を選択して追加納税を回避するのが自販機スキームの基本形です。
税制改正(1)と対応策
上記自販機スキームに対しては、H22年度改正により、申請により課税事業者となった場合は3年間は免税事業者に戻れなくすることで一定の抑止が図られたのですが、①課税事業者の申請をしてから休眠会社にしておき3期目に建設費の消費税を全額控除したり、②申請ではなく、金の売買など課税売上高を1千万円以上作ることにより課税事業者となることで消費税を全額控除するという抜け道が残りました。
税制改正(2)と対応策
そこで、H28年度改正により、「高額特定資産(1,000万円以上の棚卸資産・固定資産)」を取得した場合、取得した翌事業年度から課税事業者となり、3期は免税事業者に戻れないという措置がとられました。この改正により自販機スキームは終焉を迎えたと一般的には言われるようになりました。
ただし、 免税事業者に戻れないのであれば、調整対象固定資産の取扱いを回避すべく課税売上割合をコントロールするなどでして抗う案も挙げられています。
例えば、1期の課税売上割合が100%、2期と3期が0%の場合、変動率は(1期100%-通算0%)÷1期100%=100%≧50%となりますが、2期と3期に非課税賃料収入と同額の金の売買収入を計上すると、変動率は(1期100%-通算50%)÷1期100%=50%となり、調整対象を回避できることになります。
こうしたスキームについて課税当局も注視しているとの情報もありますが、資産家の資産管理会社が不動産運用と合わせて金投資をすること自体には違和感はないのでうまく設計すれば実務的にワークする気もします。
タイトルに書いた通り、納税者と課税当局のいたちごっこであり、今更感はありますが、備忘のためにブログに載せました。
2017年07月25日
消費税について免税事業者は益税メリットが生じるため、節税策を封じるための税制改正が繰り返されている結果、納税義務の判定は極めて複雑になっており、税理士や税務署の調査官でも正確に理解している方は少ないのではと思います。以下、現行制度の概要を整理しますが、厳密な記載にはしていないため、実務にあたる際は法令や国税庁のサイトにあたってください。
原則:基準期間の課税売上高が1千万円超は課税事業者、1千万円以下は免税事業者
基準期間とは従来、2期前の事業年度でしたが、H23年度の改正で2期前の売上高が1千万円以下でも1期前の半期の売上高が1千万円を超える場合は課税事業者になるよう課税が強化されています。「法人設立後2年は消費税を納めなくていい」というのはこのルールによるもので、個人事業者の法人成りのインセンティブの1つになっています。
基準期間がない場合の例外①:期首資本金が1千万円以上の新設法人は課税事業者
基準期間がない場合の例外②:間接保有を含む株式の50%超保有会社の課税売上高が5億円超の場合は課税事業者(特定新規設立法人)
上記例外①は従来からあったルールですが、免税メリットを狙う場合は資本金を1千万円未満にすればよいので節税の抑止力という意味では弱いルールでした。そこでH25年に例外②が導入されました。従来であれば、法人が新規事業に進出する際、資本金1千万未満の子会社を設立すれば2年間は免税メリットを享受できたわけですが、この規制の導入により不可能となっています。ただし、実務における定着度は低いといわざるを得ず、例外②に該当するにも関わらず消費税の申告を行っていない会社に多数出会います。
例外③:課税事業者が1,000万円以上の高額特定資産を購入/建設した場合は、翌3期は課税事業者
これはH28年度改正により導入されたルールですが、いわゆる「自販機スキーム」に対処するために導入されたものです。自販機スキームについては本ブログの別記事をご参照ください。
2016年12月08日
本日、平成29年度税制改正大綱が自由民主党のホームページにて公表されました。
詳細はこれから確認しますが、以下のとおり資産税関連の改正が目白押しです。
①類似業種比準方式の見直し
②株式保有特定会社の見直し
③事業承継税制の緩和
④タワマン課税の適正化
⑤クロスボーダー贈与の強化と緩和
本ブログでも頭出ししていましたが、ついに非上場株式の評価方法が改正されることになります。
類似業種比準方式については、①類似業種の株価について過去2年平均が使えるようになるとともに、②類似業種の業績数値は連結決算が反映されることになります。また、③配当/利益/純資産のウェイトが現行の1:3:1から1:1:1に戻されることになります。
法人課税についてはスピンオフの無税化やスクイーズアウト時の対価要件の柔軟化など久しぶりに組織再編税制が大きく変更される点が興味深いところです。また、国際税務では外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)が大幅に見直されます。
懸案の中小法人特例についてはついにメスが入り、平成31年4月1日以後開始事業年度からは、資本金が1億円以下であっても、過去3事業年度の平均所得が15億円を超える事業年度について適用されないこととされました。
法人課税については来年1月6日発行予定の「旬刊経理情報」に速報を寄稿しますのでご興味ある方はご覧になってください。
宮口