2021年04月27日
令和3年度税制改正では国際金融都市化に向けた税制上の措置として以下の改正が行われました。
国際金融ハブ取引に係る税制措置〔金融庁主担、経済産業省が共同要望〕
わが国の国際金融センターとしての地位の確立に向けて、海外から事業者や人材、資金を呼び込む観点から、諸課題の解決を図る一環として、以下の税制上の措置を講ずる。
①法人課税
投資運用業を主業とする非上場の非同族会社等の役員に対する業績連動給与については、投資家等のステークホルダーの監視下に置かれているという特殊性に鑑み、その算定方式や算定の根拠となる業績等を金融庁ホームページ等に公表すること等を要件として、損金算入を可能とする。
②資産課税
高度外国人材の日本での就労等を促進する観点から、就労等のために日本に居住する外国人に係る相続等については、その居住期間にかかわらず、国外に居住する外国人や日本に短期的に滞在する外国人が相続人等として取得する国外財産を相続税等の課税対象としないこととする。
③個人所得課税
ファンドマネージャーが、出資持分を有するファンド(株式譲渡等を事業内容とする組合)からその出資割合を超えて受け取る組合利益の分配(キャリード・インタレスト)について、分配割合が経済的合理性を有するなど一定の場合には、役務提供の対価として総合課税の対象となるのではなく、株式譲渡益等として分離課税の対象となることの明確化等を行う。その際、ファンドマネージャーによる申告の利便性・適正性を確保するため、金融庁において所要の対応を講ずる。
上記③のキャリード・インタレストについては、2021年4月1日付で金融庁から国税庁への照会文書という形で取り扱いが公表されています(金融庁サイト参照)。またファンドマネージャーによる申告の利便性・適正性の確保については、確定申告書の添付書類として利用可能なチェックシートや所得の計算書が今後公表される予定です。
従来は投資組合から個人のGPが成功報酬を受け取った場合、役務提供の対価として事業所得扱い(最高税率約55%の総合課税)となるのかGPとしての利益分配になるのか(株式の譲渡所得であれば最高税率約20%の分離課税)が不明確であり、係争化した案件もあると記憶していますが、今後は照会文書に記載されたような事例では分離課税が明確となりました。
本件については消費税の取扱いにも影響を与えます。キャリーを役務提供の対価と考えれば課税取引になりますし、株式譲渡収入の出資者へのパススルー分配と考えれば消費税は非課税となります。
通常では利益の20%をGPがキャリーとして受取り残額のをGP及びLPでプロラタ分配するケースが一般的ですが、キャリーの消費税が課税になるとその分、LPへの分配額が減少します。一方で支払った消費税もパススルーで各LPに分配されていきますので、各LPが当該消費税を全額控除できればキャッシュフロー的に中立になりますが、有価証券譲渡に対応する報酬となりますので個別対応方式を前提とする場合、控除が取れない方が一般的かと思います。よってLPの立場からは消費税の観点ではパススルー分配が有利になると整理されます。
一方でGP(法人・個人とも)の場合、キャリーに消費税が課されても課されなくても収入額に変化はありませんが(消費税は預かるだけで税務署に納付する必要があるため)、非課税売上と取り扱うと収入の5%が課税売上割合の計算において非課税売上カウントされ、GPが支払う消費税の控除にネガティブな影響が生じるリスクがあります。GPにおいて多額の課税仕入れが生じるようなケース(例えばGPが導管的な存在でキャリーの大半を業務委託料等で他者に流す場合)では留意が必要です。
例えばGPにおける収入がキャリー10億円のみ、内8億円(税抜)を業務委託料で第三者に支払うケースを想定します。キャリーが業務委託料として課税売上となれば消費税込みで11億円収入、費用も消費税込みで8.8億円支払となり、収支は2.2億円となります。ここから消費税の納付が0.2億円(1億円-0.8億円)生じますのでトータルの利益は2億円、法人実効税率を30%とすれば税引後の手残りは1.4億円となります。
一方で、キャリーを有価証券非課税譲渡と考えると、キャリー収入10億円、費用は消費税込みで8.8億円、収支は1.2億円となりますが、消費税については全額非課税売上なのでそれに対応する費用の消費税0.8億円の控除が取れず、トータルの利益は1.2億円、実効税率を30%とすれば税引後の手残りは0.84億円と、キャリーを課税扱いした場合よりも0.56億円も不利になってしまいます。
今回照会文書はあくまで個人のパートナーに対する所得税の課税関係の明確化を目的としたものであり、消費税については触れられていませんが、上記のような整理になると理解しています。ご参考まで。
宮口徹
2020年12月18日
令和3年度税制大綱では、外国子会社からの配当に係る源泉税について以下の改正項目が記載されています。
内国法人が外国子会社から受ける配当の額に係る外国源泉税等の額の取扱いについて、次の見直しを行う。
①外国子会社から受ける配当等の額(外国子会社配当益金不算入制度の適用を受ける部分の金額に限る。)に係る外国源泉税等の額の損金算入について、その配当等の額のうち内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例(いわゆる「外国子会社合算税制」)との二重課税調整の対象とされる金額に対応する部分に限ることとする(現行:全額損金算入)
②外国子会社から受ける配当等の額(外国子会社配当益金不算入制度の適用を受けない部分の金額に限る。)に係る外国源泉税等の額の外国税額控除について、その配当等の額のうち外国子会社合算税制との二重課税調整の対象とされない金額に対応する部分につきその適用を認めることとする(現行:全額不適用)
上記太字部分が大綱原文ですが、現行税制では益金不算入となる外国子会社からの配当金については外国源泉税額について損金算入も税額控除も認められないため、大綱の記載が誤っているのでは??などとも思いましたが、外国子会社合算税制(CFC税制、タックスヘイブン税制)が適用される配当についてのみの取扱いと整理しています。以下に大綱の取扱いを図示しますが、当職の現状の理解ですので誤りがあればご容赦ください。
以上、非常にテクニカルな論点で興味ある方は限られるかと思いますが、ご参考まで。
宮口徹
2020年12月12日
12月10日に与党税制改正が公表されました。事前の報道通り、M&Aに関する2つの改正も行われることが実質的に確定しましたのでその内容をご紹介するとともに当事務所が注力するミドルマーケットのM&Aに対する影響など考えるところを記載します。なお、大綱本文は与党のサイトをご参照ください。
1. 自社株対価M&Aの課税繰延べ
【大綱原文(下線部は筆者加筆)】
法人が、会社法の株式交付により、その有する株式を譲渡し、株式交付親会社の株式等の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べることとする(所得税についても同様とする。)。
(注1)対価として交付を受けた資産の価額(時価。以下同様)の株式交付親会社の株式の価額が80%以上である場合に限ることとし、株式交付親会社の株式以外の資産の交付を受けた場合には株式交付親会社の株式に対応する部分の譲渡損益の計上を繰り延べる。
上記が大綱原文ですが、会社法で創設された「株式交付」に応じた株主(法人・個人とも)の譲渡損益が繰延べられます。株式交付とは株式会社が他の株式会社を子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することですが、現行の「株式交換」が対象会社の全株式を強制的に取得する手法であるのに対し、「株式交付」は子会社化しさえすれば部分的、任意的なM&Aにも使える点が特徴となります。また、対価の一部を現金等とすることも可能です(いわゆる混合対価)。
例えば上場企業P社がオーナー70%支配の非上場企業T社を株式交付を用いて買収する場合、「対価の全てをP社株でT社オーナーに払う場合はT社オーナーの譲渡益は全額繰延べ(T社株式の簿価がP社株式に付け変わる)」、「対価の20%を現金にした場合は、譲渡益の20%部分は課税、80%部分は課税繰延べ」、「対価の30%を現金にした場合は、譲渡益の全額が課税」といった整理になります(下図参照)。
基本的には上場企業が比較的規模の大きな企業(上場、非上場とも)を買収する際に利用することを想定した制度ですので中小企業のM&Aに多用されるとは思いませんが、制度上は非上場企業同士のM&Aでも適用は認められます。個人的にはM&Aの前さばきの資本関係の整理などへの活用ができるのではと期待しています。
なお、現在でも「産業競争力強化法」の認定企業に限定して課税繰延べが特例で認められていますが、事前認定が必要なことやその手続きが煩雑であることから、ほとんど利用されていませんでした。今般の改正は事前認定を不要とした恒久措置となっている点がポイントです。
2. 中小企業のM&A時の法人税軽減制度
【大綱原文(一部筆者加工)】
青色申告書を提出する中小企業者(中略)のう中小企業等経営強化法の改正法の施行日から令和6年3月31日までの間に同法の経営力向上計画(経営資源集中化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けたものが、その認定に係る経営力向上計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る。)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合(その株式等の取得価額が10億円を超える場合を除く。)において、その株式等の価格の低落に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てた時は、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする。
こちらも上記が大綱原文(一部加工)ですが、記載のとおりで、中小企業が取得金額10憶円以下など一定の要件を満たすM&Aをした場合に準備金を積み立てることで取得価額の70%の損金算入が認められることになります。準備金についてなじみがない方もいらっしゃると思いますが、ざっくり言えば株式につき評価減なり引当金を積むイメージです。この準備金は取得した株式を売却や清算等で保有しなくなった場合等に取崩して益金算入します。また、株式を取得した事業年度から5年経過した事業年度から1/5ずつ取崩して益金算入します。
この点、あくまで課税の繰延べ措置ですので、M&Aのアドバイザーであれば常識の「事業譲受はのれん損金算入。株式取得は損金算入不可」の原則が崩れるわけではありません。
本制度は中小企業の統合・再編による生産性向上を図るための特例となりますが、M&Aによる成長計画につき国の承認が求められるところ、具体的にどのような要件が求められるかが今後の注目点となります。また、上記1でも述べたとおり、国の承認プロセスは重くなりがちですので、刻一刻と状況が変化し、スピードが求められるM&Aとの相性はあまりよいとは考えていませんが、取得当初の70%の損金算入は買手にとってはメリットが大きいのでフォローしていきたいと思います。
以上、来年度の税制改正で行われることが実質的に確定したM&Aに関連する税制改正項目をご紹介させて頂きました。制度の詳細は2月以降に公表される改正法案や3月以降に公表される政省令に委ねられることになりますので本ブログでも必要に応じて情報提供させて頂こうと思います。また、令和3年度税制改正の詳細については、年明けに発売される「旬刊経理情報」や「税経通信」等の専門誌にも寄稿予定ですので合わせてご覧いただけると幸いです。
宮口徹
2020年11月28日
気が付けが今年も師走が近づいています。12月と言えば我が税理士業界は税制改正大綱で盛り上がりますが、新聞報道によればM&Aに関連する改正が行われる可能性があるようです。
1. 中小企業のM&A時の法人税軽減
現政権が指向する中小企業の統合・再編による生産性向上を図るため、中小企業がM&Aで他社の株式を取得した場合、株式の取得金額の一部を損金算入させることを検討しているとのことです。技術的には現行でも海外投資などに認められる「準備金」制度の拡充で対応するようです。
取得企業はM&Aによる成長計画を国に提出、国は買収先の雇用や技術の維持、生産性向上の可能性などの観点から査定を行い、承認を受けた企業に税優遇を行う仕組みが想定されているとのことです。
昨年の税制改正では経産省がM&Aの売却主の課税を軽減するアプローチで改正要望を出したものの実現には至りませんでした。財務省がどう判断するか分かりませんが、個人的には昨年の要望よりは筋は良く、実現可能性はあるものと思っています。
改正が行われる場合、対象となるM&Aの条件(取得者、対象企業それぞれ)や取得価額の何%の損金算入を認めるのかなどが論点となってきます。財務省としては租税回避を防止するために厳しい縛りを掛けがちですが、制度を導入するのであれば使い勝手のよいバランスの取れた制度にして頂きたいところです。
2.自社株対価M&Aの課税繰延べ
会社法の改正により自社株を対価とするM&Aについて新たに「株式交付制度」が創設され、来年春から施行予定となったことに対応して、株主課税の繰延べ措置の導入が経済産業省から要望されています。
現行法では、例えばトヨタが非上場企業を買収するに際して、トヨタ株を交付した場合、株式交換等の100%強制買収でない限り、株式を売却する株主(法人・個人とも)に譲渡益課税が生じるわけですが、TOBなど任意の売却手続きについても課税繰延べが認められれば非上場株の簿価をそのままトヨタ株に付け替えることが可能になります。
このテーマについては従来から検討されており、2018年度改正において「産業競争力強化法」の認定企業に限定して課税繰延べが認められましたが、事前認定が必要なことやその手続きが煩雑であることから、ほとんど利用されていませんでした。今般の改正要望では、事前認定を不要とした恒久措置が要望されていますが、従来、改正に否定的であった財務省がどこまで歩み寄ってくれるかがポイントとなります。
主に上場企業が他社を買収する際に利用が期待される制度となりますが、上場企業による中小非上場企業のM&Aも活発になる昨今、本改正が通れば、中小企業のM&Aのスキームに幅が出てくることが期待できます。対価について株式と現金のミックスが認められるのか分かりませんが、仮に認められる場合、上記の例で言えば、「株の半分は現金で売却(課税)、残りの半分はトヨタ株で貰って(非課税)、今後の株価上昇に期待」といったストラクチャーも可能となってきます。
以上、来年度の税制改正で見込まれるM&Aに関連する税制改正項目をご紹介させて頂きましたが、確定したものではないためご留意ください。12月10日頃のリリースが予定されているようですので大綱の公表を楽しみに待ちたいと思います。
宮口徹
2020年04月13日
3月決算会社の税務申告について以下、現状をまとめます。4月13日11時30分現在の情報です。
1.国税
国税(法人税、消費税等)については国税庁から取扱いが公表されており、「やむを得ない理由」がある場合、申請により個別に申告・納付期限の延長が認められます。具体的には以下とおり例示されており、広範に認められます。なお、申請を別途行う必要はなく、申告書や納付書に延長申請である旨、記載すれば足ります。
この、やむを得ない理由については、例えば、法人の役員や従業員等が新型コロナウイ ルス感染症に感染したようなケースだけでなく、次のような方々がいることにより通常 の業務体制が維持できないことや、事業活動を縮小せざるを得ないこと、取引先や関係 会社においても感染症による影響が生じていることなどにより決算作業が間に合わず、 期限までに申告が困難なケースなども該当することになります。 ① 体調不良により外出を控えている方がいること ② 平日の在宅勤務を要請している自治体にお住いの方がいること ③ 感染拡大防止のため企業の勧奨により在宅勤務等をしている方がいること ④ 感染拡大防止のため外出を控えている方がいること
2.地方税
地方税については取扱いが明示されていません。東京都の都税のサイトでは以下のとおり災害延長の制度が解説されていますが、この制度については申告前に申請書の提出が必要となります。
A6以下の(1)のとおり、税目の限定がない申告期限の延長制度があります。また、(2)のとおり、法人事業税・特別法人事業税・地方法人特別税に固有の申告期限の延長制度があります。なお、税務署に法人税の申告期限の延長申請が認められた場合には、法人税の申告期限と一致する法人都民税の申告期限も延長されます。延長については、法人税に準じて取り扱いますので、税務署へ提出した申請書の控の写しを添付してください。
この点、法人税同様に全ての税目について事前の申請書の提出を不要として頂きたく、取扱いの明確化を図って頂きたいと考えています。
宮口